ホーム
たろうの部屋

伊那谷の四季

松尾卓球教室の部屋
ダッヂオーブンの部屋
profileにかえて
瑠璃の小屋
お気楽書評

管理人更新日記

 Kimi's Room 
伊那谷近代文学年表
勝手にリンク
旅のフォトギャラリー
TOPに戻る

センチメンタル・バリュー


     
 書店の店頭で本を手にし定価を見て「高い」と感じるか、「安い」と感じるかは人それぞれである。出版社が需要と供給のバランスを想定してつけた価格と、自分自身が判断する装幀や内容を含んだ本の価格が折り合えば購入すればいいし、そうでなければ無理矢理本を買う必要もない。ところが寄贈された本となるとそういうわけにもいかない。
 昨今、自費出版がブームになり、私も年間に二十冊以上の自分史や歌集・文集をつくるお手伝いをする。自分史は販売を目的としていないから印刷部数は極めてすくない。少ないときには五十部、多くても千部を越えることは滅多にない。製作に必要な費用は製作者に負担してもらうから、一般の出版物のように最低数千部という単位で印刷し一冊一冊販売して採算をとる必要も苦労もない。こうした本の多くは定価をつけず「非売品」や「私家版」と表記される場合がほとんどで、友人知人に贈呈される。
 ところが本を贈られた側は、もともと欲しくて購入しようとした本ではないので本の内容はともかく、お祝い・返礼をどうしようか? ということに心を痛める。本屋に並んでいる本と見比べてみても一向に見当がつかない。中にはお祝いの額を決めるために「製作費はいくらぐらいかかっているか」と発行所に電話をかけてくる人もいる。
 答える側にすれば、お客様の財布の中身を教えるような真似はできないのは無論だが、実はそれ以上に非常に答えにくい問題をはらんでいる。というのは本を製作するには、一概にいえないが印刷だけでも総額最低百万円程度の費用は必要である。五十冊つくったのであれば単純に計算して一冊二万円、千冊であれば一冊千円することになる。印刷部数の他にも、原稿の状態をみないと編集や校正・製版にかかる費用が算定できないし、製作日数の長短でも費用が違ってくる。こうした人件費が加えられた上で製作費用が算出され、単価が出るのである。だからまったく同じ大きさで同じ厚さの本でも印刷部数によって単価にして数十倍以上の開きがでるのも稀ではない。以上のことを電話口で説明するのは至難のわざである。
 そこでこうした相談には以下のように応じることにしている。「自費出版なさる方はやむにやまれぬ気持ちから書かれたものが多いから、まず中身をじっくり読んで手紙でも葉書でも読後感を書いて差し上げることが一番うれしいのではないでしょうか。お祝いやお礼を差しあげるとしたらその次で、きちんとした本であれば最低百万や二百万の製作費用はかかっているから百部や二百部であれば一冊最低五千円から二万円程度はかかっています。もしお金を包まれるとしても、お祝いやお礼を期待して出版なさっているわけではありませんから、親しい方からいただいたのであれば五千円以上、お付き合いであれば三千円程度、隣組やグループでまとめてお祝いの気持ちということであれば千円程度でも失礼にならないのではないかと思います」と。
 寄贈本に対するお返しを考えることは実はその人ととのかかわりを考えることだと思う。どんな立派な本をもらってもその人物が自分とかかわりもなければその人の一代記を読もうとする人は稀であろう。逆にどんなに薄っぺらな見てくれの悪い本でも、崇敬している人が書いた、その人の思想が読みとれ自身とのかかわりのなかで生き方に深く影響を与えそうな本であれば、手に入れることが可能ならばどんな代価を支払ってでも手元においておきたいと思うのが人情であろう。寄贈本はもともとそうした価値観に基づいて、ごく限られた人を読者に想定した本なのだ。そうした人と人のかかわりを金に置き換えるのはどうかとも思うし、それはまた販売されている本の価格と比較できる質のもでもない。
 昨今はなんにでも価格がついている。これは他人がつけた価値基準の一つだが頼っていればこれほど楽なものもない。しかし、ときには自分自身で自分のまわりの諸々に金額ではない自分なりの価値をつけてみることも大切なことではないだろうか。

ぶつぶつ  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10