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CTI電脳神殿瞥見記


     
     

 床下に張り巡らされたケーブル   監視室         

現代の床下

 不思議な建物
 飯伊地域メディア振興協会の視察研修で「普段はあまり入れてくれないところを見せてくれる」企画があるというので野次馬根性を出して同行を願い出た。
 事前に配布されたレジュメによれば、中部電力や三菱重工業、川崎重工業、三井物産、三菱商事、豊田通商の出資で、平成元年に創設されたCTI(Computer Technology Integrator)という会社で、電子認証事業の概要を学ぶというのが研修の目的だった。けれども名古屋に向かうバスの中での説明によると、CTIのビルそのものが、日進月歩のITビジネスのなかで今もっとも注目されている電子認証事業の核になるセキュリティシステムを備えたデータセンター・ビルであるらしい。中電の顧客情報の他、大手企業のコンピュータネットワークのサーバーを管理しているだけあって、一般人の立ち入りは二重三重に制限されており、その所在地さえオープンにしていないのだという。あまりむやみに写真を撮るなと釘をさされた。
 名古屋区某所のビルにつくと、確かに門にも会社名がない。そして、驚かされたのはその外観である。巨大な墓石のようにも見える。8階建て相当の6階建てビルだが1階を除いて窓がないのだ。これは後でわかるのだが、人間が居るのは1階から3階のわずか数部屋だけで、あとはすべてコンピュータ室や非常用発電器のための機械室に割り振られているからで、外から覗けるようでは困るらしい。
 協会の視察メンバーは、電子認証が既に稼働している建築業界や参入予定企業の関係者、市町村のIT関連の担当者及び事務局の飯田コンピュータ専門学校の先生方など一行二〇人。外の見えない迷路のような通路を通って説明を受ける部屋につくまでにも、何度かIDカードのチェックがある分厚い二重扉の前で立ち止まった。CTIの社長と担当者から簡単な説明を受けた後、6階にあがり各フロアーの視察に入った。

電脳神殿
 液状化の懸念される地域に建つCTIビルは、地下六〇メートルの岩盤まで柱と一体になった直径二メートル鉄筋杭が打ち込まれ、また各階床には耐震構造の設備が施されているという。関東大震災クラス、伊勢湾台風規模の洪水が発生しても主要機器には被害がないように設計されているという。
 最初に案内された6階は非常用発電機やハロンガス消火設備などの設置された機械室。コンピュータの生命線である電源は予備だけでも2系統あるが、さらに2系統ともダウンした場合に備え、500KVAの蓄電池が4台(10分間分)、さらに非常用発電機として3000KVAというジェット機並のガスタービン発電機があり、ガスタービンだけでも三日から七日程度は停電していても支障をきたさない程度の重油も備蓄してあるという。空調もこの電源によって稼働する。
 5階から3階まではコンピュータルームで、ユニシスや富士通などのサーバが整然と設置されていたが、その各部屋にも厳重な二重扉とIDカードによる認証チェック。コンピュータ室は通常無人だが、2階の中央監視室には二十四時間ビル管理者が常駐し、コンピュータの運行に不可欠な機器の運転状況を常時監視している。ちょっと写真を撮ったらすぐさま睨まれた。事務室・管理室が1階にあり、部屋をのぞくとようやく自然光が窓から差し込んでいる。ようやく人の気配がして、なにやらホッとした気分。
 いわば、この建物は電脳様を祀る現代の神殿なのだ。かくまでして護らなければならないデータが保管されているのだ。では、そのデータとはいったい何なのかという哲学的な問いはさておいて、我々の日常が、一皮めくると、こうした電脳危機/空間に管理されているのかと思うと身震いを感じた。

「お前は誰だ」
 自分が自分であることを証明することほど困難なことはない。現代社会では、住民票を引き出すにしろ、借金をするにしろこの本人証明が必要である。そのたびにこの困難に立ち向かう時間のない現代人は、運転免許証や保険証、印鑑証明など第三者が自分にかわって証明するなどの証書類で便宜的に約束を成り立たせている。ところが、国の進める電子政府構想によれば、平成十五年には全国公共団体による個人認証/組織認証の運用が始まるのだ。そして現在すでに霞ヶ関WANや国土交通省直轄事業の電子入札などが動き出している。
 住民票などの証明書発行などの自治体業務、また商業登記や契約書/証明書の保管/管理などの公証役場的な業務、さらにデータ保管や、信用保証。それらに附帯する認証業務の一切が、電脳空間でも管理/運用される時代が見えてきた。
 今そこにビジネスチャンスが生まれている。行政以外でもガスや水道、電気などのライフラインにかかわる企業ではすでに戸別のデータが集積されているし、銀行や信用調査機関などでも、多くの個人データをかかえ、参入をねらっている。しかし、そのシステムの構築と相俟って、最重要課題の一つとなっているのがセキュリティの信頼性である。
 CTIは一般のホームページ作成/運営からサーバー管理やデータセンターというEビジネスをこなしながら、既述の高いセキュリティを武器にその市場に参入を図っているのだ。ある程度顔の見える、本人申告を基礎にした社会通念の枠組みから成り立っていた認証が、ネット上の顔の見えない空間で求められる社会が間近に来ている。「お前は誰か」という哲学的な問いは以前残されてはいるものの、現代人の暮らす日常の床下には無数に張り巡らされた電脳ネットの網が張り巡らされているのを実感した一日だった。
 名古屋のビル群に傾きかけたお日様を背に恵那山の山に分け入っていく帰路の車中、ふっと明治政府の戸籍をのがれ、したがって徴兵令などからものがれ、山野に漂泊したという「山窩(サンカ)」と呼ばれた人々のことを思い浮かべた。しかし不幸にして現代人は山窩になるすべもない。(2002.2.7「南信州」)

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